No.271 介護士の声掛けが変える利用者との関係性とケアの質

介護の現場では、身体的なケアだけでなく、心に寄り添う“声掛け”が非常に大きな役割を果たします。言葉ひとつで安心感を与えたり、不安を取り除いたりすることができる反面、何気ない一言が誤解を招くこともあります。本記事では、介護士が日々行う声掛けの重要性と、その工夫や実践例をステップ形式で解説していきます。
介護現場における声掛けの実態を理解する

介護の仕事は身体介助だけではありません。むしろ、言葉を通じて利用者の安心感や信頼感を築くことが、ケアの質を左右するといっても過言ではありません。
現場では「失礼します」「今から移動しますね」「ありがとうございます」といった声掛けが基本ですが、それが習慣化すると、形式的になってしまうこともあります。一方で、「今日は体調どうですか?」「昨日のテレビ、面白かったですね」といったさりげない一言が、利用者の心を和ませるきっかけになることも多くあります。
また、認知症の方や体調のすぐれない方に対しては、言葉の選び方ひとつが大きく影響します。声のトーンや表情、話すスピードも含めて、「声掛け」は非言語の要素と一体になっているのです。
自分自身の声掛けを客観的に認識する

普段、何気なく行っている声掛けも、改めて意識して振り返ると、気づきが多くあります。自分はどんな時に優しい声になっているか、逆にどんな時に無意識に短く冷たい口調になってしまっているか。忙しいときほど、表情やトーンに余裕がなくなりがちです。
現場で自分の声掛けがどのように伝わっているかを客観的に認識することは、コミュニケーションの質を高める第一歩になります。先輩や同僚からフィードバックをもらうことも有効ですし、短いメモに「今日、嬉しかった言葉・反応」といった記録を残していくのも、自分の成長につながります。
声掛けの基本を見直し、状況に応じた使い分けを意識する
声掛けには「心を込めて丁寧に」という基本姿勢がありますが、それをどう表現するかは利用者ごとに異なります。例えば、初めての方には不安を与えないように、優しくゆっくりと丁寧な言葉を選びます。一方で、親しい関係性が築かれている方には、少し砕けた話し方や冗談交じりの声掛けが喜ばれることもあります。
また、身体介助の場面では、動作を一つ一つ説明しながら進めることが大切です。「今から右に体を起こしますね」「お手伝いしますので力を抜いてくださいね」といった言葉は、利用者の不安を軽減し、安心感を生みます。こうした“実況中継”のような声掛けは、身体的な負担だけでなく、心理的な負担の軽減にもつながります。
声のトーンや表情、距離感にも気を配る
声掛けは、言葉そのものだけでなく、声のトーンや話す速さ、表情、さらには立ち位置や距離感も重要な要素です。高齢者の中には耳が遠い方も多いため、はっきりした発音で、相手の目を見ながら話すことが求められます。
また、しゃがんで目線を合わせて話すことで、相手に威圧感を与えず、自然なコミュニケーションが可能になります。利用者にとって、「話しかけられた」というよりも、「会話をした」と感じてもらえることが、信頼関係の構築につながります。
チーム内での声掛けもケアの一環
介護の現場では、利用者だけでなく、スタッフ同士の声掛けも大切です。たとえば、「さっきありがとう」「その対応、良かったね」といった一言が、現場全体の雰囲気を温かくし、働きやすさにもつながります。
特に忙しい時期やシフトが重なって疲れているときは、ついピリピリしてしまうものですが、そういう時こそ「お疲れさま」の一言が心に沁みるものです。声掛けの文化が根付いた職場は、自然と利用者への対応も丁寧になりやすく、チームワークも円滑に保たれます。
声掛けを重視する取り組みと成功事例
ある介護施設では、「声掛け100選」をスタッフルームに掲示し、日々の中で実践できる言葉を可視化しています。利用者との会話が少なくなりがちな時間帯や場面に合わせて、「この言葉を使ってみよう」と意識づけることで、自然とコミュニケーションの質が上がっていきました。
また、職員間での声掛けチェックシートを使い、互いに良い声掛けを見つけて褒め合う取り組みも行われています。こうした仕組みは、声掛けに対する感度を高め、現場全体の雰囲気を明るく前向きに変える力を持っています。